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「なんで、家には金が無いんだ。」
「何言っとる、金はあるじゃない。ただ貧乏なだけだ。」 中学校に入ったころ、次男は友達のように欲しいものが買ってもらえないことに、腹をたて苛立っていた。 次男の気持ちも分かる。 不景気だと、巷で騒がれていても欲しいものが買ってもらえ、塾や家庭教師にも習えて・・・。部活動で必要だからと新品の靴や道具を買ってもらえる友の姿に、思春期の次男は「なんでうちは・・!」とやり切れなかったのだろう。しかし、毎日ぎりぎりの生活をしている我が家にとって、次男の欲しいものと、必要だから買うとは違う。 ある日、そんな次男の変化に気付いた。それは、ちょうど去年の今頃のことだった。 長男からもらったというスポーツ店の割引葉書と500円玉を握り、「見るだけでいいから・・」と、店に連れて行って欲しいという。いつもなら断るのだが、このときは次男の気がすむまで付き合うことにした。 店に入った次男を、どのくらい待っただろうか・・。両手に沢山の買い物を持つ母親と笑顔の男の子のすぐ後ろから、何も買わずうつむきながら出てきて、足早に車に乗り込んだ。そして「本なら買える」と、またすぐ近くの本屋に入って行った。しばらくして出てきた次男の手には、やはり何も無かった。500円では、次男の欲しいものは何も買えなかった。 帰り道、遠く山間に、家々の灯りがまばらな夜の田舎の風景を眺めながら、「連れて行ってくれてありがとう。」そうポツリと言った。 家に着くと、「割引の葉書をやった礼を・・」という兄と喧嘩になった。兄の上に馬乗りになった次男は、小3の頃から見せたことの無い涙をながしていた。この兄弟喧嘩に、この日胸の中に溜めていたやり切れない気持ちをぶつけたようで、この日から次男は、欲しいものと必要なものとを、自分なりに決めて伝えるようになった。 そんな次男も3年生になり、進路を決める三者面談があった。 「なんで、この学校に決めたんだ。目的は?」この先生からの問いに、次男は「いや、何となく・・」と答えた。 ふと手元の用紙をみると、小学生のころからスポーツで行きたくて目標にしていた高校と違っていた。次男は家に負担をかけないよう、進路を変えていた。「お母さんの考えは?」と聞かれ、彼の気持ちを代弁した。 とても、思春期の子の口から「うちは貧乏なんで・・」は言えなかったのだろう。 家に帰り、先日からの雨で谷川に溜まっている山砂を、おばあさんと川から上げて庭にまく作業をした。今の時期にしか出来ない作業だ。しかし、水を含んだ砂は見た目より重く、作業はとてもきつかった。それをみていた次男が、途中から手伝ってくれた。とても助かった。そして、作業を手伝った次男に、少しばかりの手間賃を渡した。我が家には、決まった小遣いは無い。子供らは、こうして作業に応じた小遣いをもらう。次男は、欲しいものを買うからと大切にしまっていた。 貧乏だが心豊かに暮らす・・ 我が家のこの貧しい暮らしに子供らが学ぶことは、私の想像をはるかに超えている。 Top▲
by veronica-t
| 2009-07-29 12:29
| 絆
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Comments(3)
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by
nature21-plus at 2009-07-30 03:02
哲学だね。これ…
まるで、吉野せいの「洟を垂らした神」を読まされているかのようだ。 あだやおろそかにコメントなんか出来やしない。もし、つまらんことを気取って書き込む輩がいたら、そいつは大馬鹿者のそしりを免れまい…… 人生とは、「食べて、寝て、隣人と上手くやる。」ことに過ぎないはずだ。「貧乏とはなかに!金があるとは、一体なにか…!」だ。しかし、現在のように、誰も見たことも、その実態も感じられない「世間並」に怯えさせられる時代には、その本質を見失いやすい… この文章を書かれたあなたに敬意を表する。そしてあなたに、この文章を書かせた次男君に、その純真で懸命な育ちに、あらんかぎりのエールを送りたい……
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by
nature21-plus at 2009-07-30 13:13
>この暮らしから子供らが学ぶことは、私の想像をはるかに超えていた。
これは、ご自身の文章が、三人のお子さんと、社会に向けられたメッセージであると意識して書かれています。吉野せいとまるで同じ位置に立ち、「貧しさの中に懸命に育つ我子をあるがままに見つめる母性」をもって…。高群逸枝にして「世間並み,この言葉,呪われてあれ」と、憎悪し、吐き捨てるしか出来なかった「世間」を俯瞰しながら、ご自身が理解される「与えられたそれぞれの場所にこころ豊かに暮らす」思いを、丁寧に紡いでいるのだと理解すべきです。 これはVeronicaさんの思想であり、哲学です。あだやおろそかな同情やエールなど、無礼です。 ぼくには、そう思えるのです。あしからず…
Commented
by
nature21-plus at 2009-07-31 14:45
この記事を知人に紹介したら下記のような返信が来ました。
ーーー ああ。です。ありがとうございます。Veronicaさんのこの文章読めてよかった。 子ども達について考えながらかみさんと読んでみたいです。 ありがとうとお伝えください。 ーーー です。
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